今は個人向けの衛星インターネット通信として「Starlink」が有名だろう。低軌道の小型通信衛星を最終的に42,000基程打ち上げて、地球上のどこからでも通信ができるようにしたものだ。
全く知られていないが、20世紀の終わり1999年に日本でも通信衛星を使った「Mega Wave」というサービスが開始された。
当時は一部CATVではブロードバンドサービスを開始していたが、ADSLの普及前で「東京めたりっく通信」という会社が設立された頃だ。まだまだモデムが主流で、28.8Kbps~64Kbpsが一般的な速度であり、一部のお金持ちの方が別料金を支払いISDNバルク通信での128Kbpsが事実上最大だった。
この「Mega Wave」はかなり特殊なサービスだった。スカパー!の空いている回線を利用して、上りは電話回線、下りは衛星回線を使う事により500Kbps~1Mbpsの通信速度を出すサービスだった。衛星回線自体は30Mbpsの速度を持っており、それをシェアして利用する形だ。当時としては相当な通信速度だった。
スカパー!用のCSアンテナが立てられて電話回線が使用できるところであればサービスを利用することができた。
もちろんCSアンテナはスカパー!と共有が可能だったが別途機材が必要なため、初期投資として数万円の追加が必要だった。月額料金は\3,980で使い放題だったのだが、NTTの電話代は別である。
スカパー!を利用しつつ、インターネットに対してお金に糸目をつけない様な方達には好評なサービスだった。
車をモバイルバッテリーとして兼用し、移動先でもデジタル公衆電話を見つけるとノートパソコンを繋いで常にインターネットを楽しんでいたような人達だ。
そんな方達は、自宅の回線速度の遅さに辟易していた。
老兵は3時間1,000円のプロバイダーサービス利用が限界だったのだが、ごく初期に体験する機会を得ることができた。
おそらく上りの回線速度が遅いのと衛星とのやりとりか、リンクのクリック後に若干の引っかかりを感じたのだがデータが転送されてくると「ズドン!」といった感じで、驚くべき速さで表示された。
当時はモデムからのアクセスが主だったため、サイト運営側は限りなく画像データを小さくして配慮するのが一般的だった。JPEG画像もプログレッシブ形式にして、全部ダウンロードせずともぼんやりと概要が分かるようなデータにするのは基本だった。
それが「Mega Wave」だと画像データが多いサイトでも、全く苦になること無く一瞬で表示された。プログレッシブかどうかも分からないレベルだ。
今のように速度測定サイトなんか無かったから、どのくらいの速度が出ていたかは分からないが通常の2倍3倍のレベルでは無かったことは確かだ。老兵も憧れのサービスだった。
そんなサービスだったので、当初は順調に加入者が増えていった。
ただサービス開始直後は大変良かったものの、段々と目に見えて通信速度が遅くなっていった。

さぞかしクレームが多かったのだろう。サービス開始半年後はこんな感じでトップページへインフォメーションが表示されていた。
お金持ちの方でも電話代は節約したいので、テレホーダイサービスの時間に繋ぐのは普通のことだった。ただテレホーダイサービスの時間帯には絶望的な遅さだった。インフォメーションの「ISDN回線のみでのインターネット接続より遅くなる場合があります」は「ISDN回線より遅くなります!」の間違いだろう、というか「アナログモデムより遅くなります!」が正しかった。この時間帯は事実上全く使えないサービスだったのだ。この情報はネット上を駆け抜けた。
そのためか1年後でも契約者数は6,000件位だったようで、見切りを付けた方も多かったのだろう。意外と少ない。
レベル違いの通信をするユーザーはごく一部だ。今でもそれは変わらない。
ある程度バッファを持ってサービス設計したのだろうが、おそらく尋常では無いレベルの通信を行う人達のみが集まったのだろう。2000年9月には早々にサービスが破綻してしまった。
このままサービスを継続するには月額料金が10倍程度も必要になるし、実は計画の10分の1程度の契約数しかなかったとのことで、全く採算が合わなかったようだ。
2000年10月以降「Mega Wave」のサービスは完全停止となったため、初期投資の機器代金は一部返金になったが、企業向けの「Mega Wave Pro」というサービスは残した。
個人向けには「Mega Wave Select」というサービスへ移行し、これはマルチキャストで動画などを配信するサービスとなった。自動録画して好きな時間にPCで閲覧できるというサービスだったのだが「全然これじゃ無い!」感が満載で話題にもなることも無かった。

このサービスも、人知れず静かに消えていった。
NTTとしては珍しく野心的な会社を設立し「NTTサテライトコミュニケーションズ」という会社がサービスをしていたのだが、今は跡形も無い。
しかもプロバイダーのドメインも放置され更新契約されなくなった。そのためか後年怪しげなサイトに生まれ変わっていた。
黒歴史として葬られてしまったサービスだった。
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