教えてくんとググれカス

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ネットワーク上のコミュニケーションと言えば、パソコン通信が始まりだったろう。
1980年代後半から1990年代前半の頃だ。
もしパソコン通信ををやってみたければ、ハードウェアやソフトウェアの設定を全て自力で解決する必要があった。
今よりPCそのものも高額だったし、通信料金もバカにならない。ちょっとお遊びで試すには著しくハードルが高い状態だった。

そのためか比較的紳士淑女の集まりで、掲示板に投稿するにもそれなりの素養を要求された。
マナーとして、過去ログを読んで同じような質問と答えを確認しているか重要だった。もちろん、回答そのものが理解できないこともあるだろう。その場合は分からない部分を投稿すれば、そのスキルに合わせての回答がされていた。
トラブルに関する質問に関しては、それで解決したかどうかの報告もマナーだった。
それが過去ログとして保存され、貴重な資料となった。
上級者側からすれば初心者の躓きポイントがわかるし、初心者はスキルアップになるというWinWinの関係があった。
マナー違反をすると今後一切無視されるのが普通で、「過去ログを読め」と書かれるのは実はまだ良い方だった。上級者になるほど、読む価値の無い投稿は削除していたものだ。ID番号等で識別できるので、イライラしないように裏で存在そのものを消す対応をしていた。
時間も削減できるので一石二鳥だったし、そういった機能がパソコン通信のソフトに組み込まれていた。
一度NGリストに入れられてしまうとと二度と復活することは無い。著しくマナー違反をした人は、誰からも返事がなかった。なぜ誰も反応しないのだろう?とか思うこともあったのだが、それは過去ログが教えてくれた。それを見て自分もNGリストに加えたものだ。

それがインターネットの普及と共に徐々に失われていった。
パソコン通信は良くも悪くも閉鎖的だったので、参加者のスキルは高かったのだが、反面初心者には厳しいものがあった。
パソコン通信→インターネットという方は多数いたのだが、インターネット→パソコン通信という方は、まずいないだろう。新規ユーザーはインターネットオンリーなので、多くの方はインターネットに軸足を移した。

インターネットは今も同じだが、管理する方や情報がバラバラである。パソコン通信であれば、あそこに情報があるだろうと予想が付いたものだが、完全に情報がばらけてしまい、必要な情報を探すのにも一苦労で情報の粒度も天地ほどの差があった。
それを纏めるのが検索エンジンだった。逆に言うと検索エンジンを適切に使えないと、必要な情報にはたどり着けなかった。
有名なのはYahoo!であり、日本においては当初より確固たる地位があった。1996年4月からサービス開始されたのだが、当初は15,000サイトを纏めただけの、ただのリンク集だった。
今とは違い申請制であり、実際に人が確認して登録するか決めていた。一定以上の品質でないと登録がされないため、Yahoo!に登録されるのは一つのステータスだった。さらに特に品質の高いサイトは、COOLマーク(サングラスのマーク)が付与され、検索上位に表示されるようになっていた。今でいうところのSEO対策なのだが、ロボットでは無いため小手先のテクニックは全く通用せず、全般的に品質が高い事は間違い無かった。

そういったサイトに「掲示板」と呼ばれる機能を追加して、パソコン通信からインターネットへコミュニティーが次々に移っていった。
実のところ、人気の掲示板はパソコン通信上でもシスオペ(管理者)として活躍されていた方も多く、またヘビーユーザーとして管理人を支える方も同様で、基本的にパソコン通信のマナーをインターネットへ持ち込んだ。
しかし、あまりにも初心者の流入が多く機能しなかった。

ちょっと下に答えが書いてあるのに質問する方が多く、そのたびに過去ログを読めとの回答が連発する感じだ。もちろんトップページはマナー的なことが書いてあるのだが、読まない。
掲示板はPerl等で自作されていた方も多く、もちろんレンタル掲示板のようなものもあったのだが、各々全く互換性が無かった。
そのため、特定の方の投稿を裏で削除するような機能を持たせることは難しい状況が続いた。
「インターネットは無料の相談コーナーじゃ無いんだよ!」と、裏で言われていたのが「教えてくん」である。
教えてくんは、初心者であることを免罪符に慇懃無礼な質問を繰り返した。無視するわけにも行かず、だんだんと掲示板の雰囲気が悪くなるため非常に嫌われた。
もちろん、過去ログを読んだ上で「ここの意味が分からない」という様な質問なら歓迎された。

そして検索エンジンとしてGoogleが覇権を握った頃、生まれた言葉が「ググる」である(ちなみに自分はβサービスの頃から利用していたが、トップ画面は昔から変わらない)
当時はまだYahoo!はディレクトリ型で、面白そうなコンテンツを探すには便利だったが、単語の調査には不向きだった。対してGoogleはロボットにより定期巡回してサイトコンテンツをGoogle内に保存する。必要に応じて、その内容から検索結果を提示するという全く新しい手法だった。
これによるメリットは、ユーザーの知りたい情報を常にホットに提供できることだった。
当初は多くのリンクを得ているサイトや、Yahoo!等の有名サイトに登録されているサイトが優先されて表示された。
そのためYahoo!で検索するより、Googleの方が必要な情報にたどり着ける確率が高かった。自然に検索はGoogleが標準となって行き、他の検索エンジンは廃れていった。そしてGoogleで検索するという意味として「ググる」という動詞が誕生した。最初に聞いたときは???と言う感じだったのだが、すぐに理解できる便利な単語だった。ちなみに英語圏でも同時期に「Google it!」なんかをよく見たものだ。

そして分からないことがあったら、過去ログより先にGoogleでもまずは調べよう!という暗黙の了解ができたのだが、それでも尚、「教えてくん」は変わらなかった。
何でも聞けば無料で教えて貰えると思っていたようだ。
さすがに我慢できずに生まれた言葉が「ググれカス」である。
確かにちょっとGoogleで調べれば分かることだった。さすがに「ググれカス」はどうかとも思っていたのだが、老兵も同じ様な気持ちだったのは間違い無い。
そして最終的に略語の「ggrks」になり、検索すらしない方は「ggrks」の意味すら調べないので意味が分からず、周りの方はそれを見て裏で嘲笑しているような状況になった。

さて、なぜこのような人達がいるのかといえば、そもそも母国語(日本語)が苦手な人達なのが自分の見解だ。
過去、仕事柄それなりの人数のいわゆる「教えてくん」のGoogle検索履歴を調べたことがあるのだが、圧倒的に語彙が少なかった。老兵の専門外領域でも「その単語じゃ、さすがに検索にでてこないだろう」と思うほどだった。

若者言葉で「ヤバい!」という単語があるが、本来は「何か良くない事が起こりそうだ」という状況の意味だ。ここ20年位でポジティブな「凄い」「面白い」「かわいい」「美味しい」・・・などの意味に使われることがある。
これは仲間内では良いのだが、インターネット上では意味が通じない。何かあったら「ヤバい!」という単語だけで話が完結してしまうため、他の適切な単語を知らないのだ。
よって検索方法はわかるものの、検索すべき言葉が入れられないのである。
「教えてくん」の言っていることが良くわからないことも多いが、それは語彙力が無いため言語化する能力と思考力が低いためと思われ、彼らからすると何を言われてもまずは聞いてみるほか無いのだ。

最近だと帰国子女で日本人にも関わらず母国語が英語の方などもいる。こういった方は翻訳して英語で検索して英語で考えるので全く問題が無い。
ただ英語が得意と言っている方でも「セミリンガル」と呼ばれる人達がいる。親の仕事の関係か教育方針によって、日本語も英語も不得意になってしまった人達だ。確かに一般的な日本人より英語は得意なものの、英語圏でビジネスに必須な単語を知らないのだ。こういった方も同様に検索ができない。これも実際に自身が経験したことだ。

今後は、検索の一部が生成AIに移っていくだろう。この時一部の「教えてくん」は救済される気がするが、やはり多くは使いこなせない気がする。通常の検索エンジンよりも語彙力を要求される。
それより「ググれカス」と言っていた方も、今後は安心はできない。

現在の生成AIは既に一般的な単語と専門的な単語を入力して同じような質問をした場合、返ってくる文章が全く違う。一般的な単語で調べると基本的に表面的な概要だけだ。専門用語を入れると、その単語の知識レベルに応じた回答になる。
生成AIにそのことを尋ねてみたら、入力者の専門性に注目して回答を調整しているそうだ。
生成AIだけで言えば単にコードをコピペで書いているエンジニアと、線形代数や偏微分を理解しているエンジニアではコード品質が全く違う。
生成AIは、そのような質問者の知識量に合わせて回答がされるのだ。

よって専門性が高いほど生成AIを使いこなせるものの、低い方は常に一般的な情報に触れられるだけだ。出力される文章も「分かった気にさせてくれる」高度なテクニックをが使用されている。
これは今後圧倒的な差になって表面化してくると思われ、多くの人が「教えてくん」側に移ってしまう可能性が高そうである。
所属する業界で上位10%以上の能力が無いと生き残れないかも知れない。生成AIの学習対象になるだろう方達のみだ。生成AIの進化以上に自分の専門性を高めなければならない。
AIによって一度仕事を奪われると挽回は出来ないだろう。

あと5年もしたら自分も、チャぴれカス(ChatGPTで調べろ)とかジェミれカス(Geminiで調べろ)とか言われてしまう気がしてならない。。。

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