西之門 よしのや

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今回はキュンパスを利用して、平日に善光寺参りをしてみた。
近くにある「西之門 よしのや」さんに訪問してみたのだが、この酒蔵は善光寺に御神酒を奉納している。

よく趣味で酒蔵巡りなんかをするのだが、日本酒においては2月、3月は仕込みの時期で忙しく見学をやっていないところが多い。
そして「試飲は絶対!」となると公共交通機関を使わねばならないし、この時期は見学できるところを探すのが大変だったりする。

一般的な企業と違って日本酒業界は6月決算のところが多い。日本酒のラベルにBYという表記があったりするのだが酒造年度を指す。「Brewery Year」の略語で製造された年を表すのだ。7/1から6/30をワンシーズンとして管理しており、実は酒税法でそう決まっている。大抵は製造年月が記載されているので、気にもしないけど。
小さな酒蔵だと6月決算が多かったりするのだが、大手ビールメーカーなんかは半年ずらした12月決算が多い。おそらくこの辺が理由だろう。
6月前後だと決算関連の方達は大忙しなのだが、蔵人は比較的暇な時期だ。
ざっくりと6月から8月の間は、こうした蔵人の方が見学対応して下さることも多く、お勧めの時期である。

「西之門 よしのや」は初代の藤井藤右衛門が善光寺大本願尼公上人にお供して京都から移ったのが始まりで、二代目の藤井伊右衛門が1637年に酒造業を始めた。
善光寺の創建は642年頃と言われており、約1,000年後に酒造業を始めたことになっているのだが、元々の「吉野屋」の歴史はもっと古く、現在の和歌山県(紀井国)をルーツとしている。
家督相続をすると「伊右衛門」を襲名するようで、第14代藤井伊右衛門氏は長野市長や第21回衆議院議員でもあった方である。
そういった意味で、長野市の発展とともに「西之門 よしのや」は現在まで歴史を歩んできた。

善光寺には、御神酒を奉納する文化が残っているのが非常に疑問だった。寺院なのに神社なのである。普通は寺院に御神酒を奉納しない。
通常仏教では「五戒」の1つである「不飲酒戒」よって飲酒は禁止されている。ただ「般若湯」といって、お薬として飲むことは必ずしも禁止されてない。戒律の厳しい高野山でも、冬の寒さから体を温める薬として「高野山般若湯」が今でも残っている。「僧坊酒」とも言われ日本酒を製造していたのだが、あくまでお坊さんがお薬も製造していただけなのである。
でも御神酒となると別だ。その辺が知りたかった。

まずは、「善光寺七福神めぐり」から。わざわざ事前予約してガイドをお願いしてみたのだけど、なんとマンツーマン。約2時間ほどのガイドなのだけど、絶対に赤字だろうに細かく教えて頂ける。そこって入っていいの?って所まで教えて頂けるので、七福神めぐりをするなら是非利用した方が良いね。

まず最初の寿老人は「西光寺」なのだが、神様なので一般的には神社にあるものだ。お酒を抜きにしてガイドの方に訪ねると「神仏習合」によるものだそうで、神と仏の境が曖昧のようである。ちなみに寿老人像の裏には苅萱稲荷神社がある。
最初から不思議な感じだ。一通り七福神めぐりをした後に善光寺参りだ。実に約30年ぶり。歳を取るわけだよな。。。

善光寺本坊大勧進の入口には菊門があり、皇室とのゆかりが深い事を表している。
有名な「四脚門」の脇には、ひっそりと菰樽が積まれている。
お寺なのに菰樽である。ある意味これを見に来たのだ。自分以外には誰も気にもとめていない。

善光寺で予習は済んだので、早速「西之門 よしのや」に伺う。このトンネルは、趣があっていいね。

入口を過ぎると、早速お店の方が案内してくれた。最近お酒が飲めるようになった位の女性の方が担当になった。
観光客相手に試飲をして頂いて、お酒を購入して貰うスタッフの方である。
彼女の人生において、クレーマーとは違う別次元で面倒くさい客にあたってしまったと思われ反省である。

こちらに用意されたお酒は、試飲であれば飲み放題だ。もちろん無料! いやいや充実しすぎな気が。。。
普通の方はお値段の高い数種類と、実際に購入するつもりのお酒を試飲する位なものであろう。
もちろん左から順番に全部頂いた。さらに続くお味噌汁とよしの豆も全部である。

日本酒に関しては、使用しているお米、酵母、精米歩合、製法など、細かい所まで伺ってみた。その年齢じゃ知らないのは普通だよな。。。
店員さんは「分かりません。。。」が連発だった。お味噌汁のパートに移ると、自分はそれほど興味がなかったのでいつもと同じペースで話されていた。なんかとても申し訳ない。。。

実は「よしのや」さんでは事前予約をすると、500円で蔵の案内がお願いできる。聞きたいことを言っておけば、それに対応ができるスタッフが対応してくれるシステムがある。ちなみに後で500円券として使えるので、お土産を買うなら実質無料だ。お願いした方が良いだろう。
ただ訪問時間が分からなかったので、今回は予約できず残念だったお話をしたら「今なら対応できますよ?」との事だったのでお願いしてみた。
ということでバトンタッチとなり、今度は20代半ばの女性が担当になった。先の女性は面倒な客から解放された。

もちろん彼女も面倒な客に付き合わされたのは言うまでも無い。
例えば奥にある木の樽を見て、説明前に「最近の酒蔵で木製の暖気樽を使っているのは珍しいですね!」なんて質問すると、「えっ、そうなんですか?普通にあるから知りませんでした!」
という感じである。
二人の店員さんのお話から、一部のお酒に長野R酵母を使用していることの推しがあったので協会酵母の話もしたのだが、もちろん???という感じで質問に回答ができず困った様子だった。我ながら本当に困った客そのものである。反省。

一通り説明を受けて試飲会場に戻ると、売場の責任者と思われる女性が近づいてきた。

責任者
責任者

「もしよろしければ、社長が30分後くらいに戻ってくるので、担当させますが。。。」

Nouno
Nouno

もちろん、お願いします!

ということで、お願いしてみた。ただ見方を変えれば、クレーマーが責任者を出せ!と言って、ついに社長を出させた感じになってしまった。。。

見学時間が少々足りなかったので、再度待ち時間委にゆっくりと蔵元を見学してみた。
こちらで製造しているのかと思ったら、現在は違うところで製造しているらしい。
どおりで見学ができるわけである。

蔵は明治期に建造されたとのことで比較的古いものの、一般的な土蔵造りのようだ。木造なものの大規模なトラス構造は見られないので、そこまで大きくない蔵の様である。この蔵の奥におそらく工場を増築したと思われ、そこから見える設備は非常に近代的だ。そもそも天井から柱から鉄筋コンクリート作りに見える。細かい所は、よしのやさんのホームページが詳しい。

酒蔵には必ずと言っていいほど、神棚がある。もしかしたら仏壇とかあるのか?と思っていたら、やっぱり神棚だった。うーん謎である。

社長が到着して早速名刺を頂いた。「代表取締役社長 藤井信太郎氏」である。なぜか酒蔵は自分一人、誰も居ない。完全に貸し切り状態である。

早速、善光寺の御神酒について伺ってみた。確かに奉納しているものの、おそらく京都から善光寺へ共に移ってきた縁が理由とのこと。
和歌山から京都に移ったことや、京都から善光寺に移ってきたことについては、色々調べているものの具体的なことについては分からないようだ。もはや当人に聞くこともできないしね。。。

他にも色々と尋ねて見た。まず試飲にあったお酒の種類が全て純米酒だったことだ。工場の展示にもあったが、昔は雲山という銘柄を製造しており、これが所謂三増酒だったようだ。これは戦中・戦後の米不足時代に日本酒に醸造アルコールを加えて糖類・酸味料も足して、元の3倍の量にしたものだ。はっきり言って、日本酒のような別のお酒だった。
これが添加物もりもりで、悪酔いすると言われた所以である。
そのイメージが強く、醸造アルコールを添加した一般的な大吟醸などは敬遠されるため、純米酒のみで勝負することにしたようだ。

個人的には、どのように作ろうがアルコール(エタノールの化学式)は全て同じであり、製造方法によって違いは無い。
アルコール製造には、発酵アルコールと合成アルコールがあるが、確かに工業的に原油から精製して作る方法があり現在も大量生産されているのだが、基本的に食品関連は全て発酵アルコールを使用している。全部生物由来だ。それに三増酒は20年も前に製造されておらず現存していない。
醸造アルコールを添加すると悪酔いするという人もいるのだが、本当にそうなのか甚だ疑問だ。

醸造アルコールだと米以外のサトウキビだとかとうもろこしだとか由来のものもあるので雑味が増えるのはわかるのだが、そうった風味が無い無味無臭のアルコールを使用する。
味が合わないという理由なら分かるのだが、体に悪いというのはちょっと違うと思う。
品評会で金賞を取るお酒の大半は、醸造アルコールを使った大吟醸酒だ。こういったお酒は味を調えるため、ほんの少しの添加にすぎない。
自分も確かにどちらかを選べと言われたら純米酒を選ぶのだが、そういった理由で消えていく銘柄も増えてきており残念な限りである。

伺った話では、こちらの酒蔵は近代的な製造をしているらしい。実際に写真とか展示されているのだが、まるで科学の実験室の様である。

一般的に見られない装置として製麹装置があった。製麹とは蒸米に麹菌を振りかけ、繁殖させて「米麹」を作る作業の事を言うのだが、ここが昔ながら手作業のまま(もしくは近い)のところと、機械化が進んでいるところに分かれているのだが、こちらはほぼ全自動な感じを受けた。なんでもこの装置はビール製造の工程で使用する機械を改良して作られているそうだ。

もろもろ30分程度、社長にお付き合い頂いた。なんか本当に記者にでもなった気分。

ここまでして頂いたので、今回はお土産を奮発してみた。
まずのお勧めは、「西之門 純米大吟醸 50」こちらは、長野県産美山錦と長野D酵母を使用した純米大吟醸だ。両方とも長野県産であり、犀川系伏流水を敷地内の地下から汲み上げられた良質な水を使用した日本酒である。ちょっと他では味わえない日本酒だろう。山田錦とは違う旨みとフルーティーな香りが楽しめる。おそらく一般的な日本酒よりも旨味成分が強く、人によっては若干べたつく感じを受けるかも。

そして次にお勧めなのは、「西之門 純米大吟醸 50 袋しずくしぼり」である。ラベルを見ても初見だと分からない位そっくりである。袋しずくしぼりとは、酒袋に醪を入れて、自然にしたたり落ちた雫を集めた贅沢なお酒だ。一般的に圧搾機を使って搾るのだが、これは袋に入れ、雫を集め、片づける作業があるので大変重労働なのである。押しつぶさないでの雑味が非常に少ない。
酵母は同じ長野D酵母なものの、お米は雄町だ。これは江戸時代末期に岡山県で誕生した希少な酒米で、栽培の難しさから「幻の酒米」と言われている。最近は熱狂的ファンである「オマチスト」と呼ばれる人達の為にか、ごく少量ながら多くの酒蔵で醸され流通している。
そのため、ちょっと特別なお酒だ。他にも袋しずくしぼりのお酒はあるのだが、真っ先に目に入った。
ちなみに、このクラスになると杜氏「原田浩生」氏の名前がラベルに刻まれている。
こちらは、どっしりとしたコク特徴のあるお酒だ。複雑な余韻がする。爽やかな吟醸香を感じる。若干とろみを感じるが、べたつくという感じでは無い。

あとはお勧めの長野R酵母を使った、純米大吟醸R酵母スパークリングである。リンゴ酸が特徴のお酒だ。爽やかなリンゴの香りと甘酸っぱさが特徴。発泡酒なので、日本酒が苦手な人でも大丈夫だろう。思い出した、多満自慢 「瑞る青」 純米吟醸生酒が非常に近い。

番外のお勧めはレモンサワー。焼酎じゃ無くて日本酒で割ったサワーなのである。これは日本酒が苦手な人でもおすすめ。ただ甘いのが苦手な人はだめだね。こちらは帰りの新幹線の晩酌に丁度良かった。

善光寺になぜ「御神酒を奉納しているのか?」の疑問は晴れなかったが、もろもろの観光の中で善光寺が無宗派のお寺であり、仏教以外にも神道と地域の土着信仰が合わさり複雑な信仰心へと変わった為だと仮説を立てた。明治初期の神仏分離令で大きな混乱があり、一時は神社への改組も検討された程の歴史があるため、純粋なお寺であると一言で表せない所があるのだろう。信仰となると、それが当たり前の価値観になるので正解は一つではなさそうだ。
「吉野屋」のルーツは現在の和歌山県とのことなので、もしかしたら熊野信仰とかにも繋がっているのかも。
定年を過ぎたら、答えを探しに和歌山の酒蔵へも訪れてみることにしよう。
また一つ旅の目的ができた。

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